住宅って、今までは構造家は入らず、全部設計者が自分で壁量計算とかして、設計が出来てた。
でも、PCの導入で、複雑な解析も簡単に出来てしまうので、若い構造家の頑張りもあって、住宅であってもかなりアクロバティックで、構造的に面白いものが、最近は、ぼんぼん出来てきている。
この状況は世界的には実は稀で、世界の写真家たちはこぞって、ニッポンの住宅に魅了され、高い評価を与えています。僕の主観では、これはバブルに似た状態に思えてしまうきらいがあります。日本だけのきわめて局所的であり、刹那的な動向。この時代の流れを敏感に察知し、新しいモノへの挑戦はきわめて刺激的で、楽しい事です。
とはいえ、住宅は当たり前なもので、当たり前なものを拡張させる方向で解くスタンスの建築家もいます。(前述の世界的評価は比較的出版や写真家に偏っていることが、我々が考えねばいけないところ)だから、時代がたったときに量産される面白いものが、実は時間がたったらゴミだったなんてことがないように、本質を見ていかなければならない。バブルの時に土地いっぱい買っちゃった奴を笑えないのと同様に、これって、とても難しいことで、未来を読めと言ってることと同じなんです。その時が来なければ、誰も分からない。だから、皆、次のスタンダードを必死で探し、表現します。
僕自身、どっちに属するのかは不明ですが、性格的には面白いモノ、新しいモノを追っかけるタイプだと思います。 でも、奇しくもとても保守的でありながら技術基盤がしっかりした事務所に属しているので、基本的な技術を理解し、他分野の技術を柔軟に吸収できる、上質なデザイナーを目指したいです。はなれない気がしますが・・・。
ここで、本題ですが、最近(でもないか・・・。ちょっと古いかな。)、面白い建築には面白い構造が採用されています。有名構造事務所や、かの有名なインテグレーターともちょくちょくコラボしている金属加工業者の紹介。
・高橋工業
もともと造船の会社なのですが、その技術を建築に活かしています。どういう構造を可能にしたかと言うと一言で言うと「モノコック」構造。自動車や船がいい例です。広くいえば、骨のない昆虫、カブトムシらもモノコック構造でしょう。正確に定義を調べると、
モノコック(Monocoque)
ギリシャ語の「ひとつの…」とフランス語で「貝殻」からの造語。 自動車・鉄道車両・ミサイル・一部の航空機などのボディ一体化構造(モノコック構造とも)。
[編集]自動車フレームとボディを一体に作った車体で、現在の自動車のほとんどに用いられるボディ構造。フレームレス構造とも呼ばれ、英語ではframeless construction、米語はunitized constructionにあたる。
メリット:軽量で剛性が高く、床を低くできる特徴を持つ。衝突安全性にも優れる。
で、この会社の社長さんですが、儲けより刺激って感じの、おもろいおっさん。会社の仕事で会いましたが、実は、今回の案件での応用を探ってもみました。今回のI邸のボリュームは多面体なので、これをモノコックで出来ないかと考えたのです。特に今回は、屋根部分壁も等価に扱った多面体の面の一部として形成したいボリューム感でした。
屋根や壁は通常、構造 (断熱) 防水 下地 仕上げなど、複層で出来上がっています。RC造だとすると、そこでは鉄筋屋さんが鉄筋を組み、大工さんが型枠を作り、コンクリ屋さんがコンクリ練って、壁を作り、断熱屋さんが断熱し、開口があれば防水屋さんが防水し、仕上げ屋さんが仕上げると言うように、複数の工程と複数の業者が取り合います。
モノコック構造であれば、上記を一発で兼ねてしまうことが出来ます。(仕上げは塗装も考えられますが)また、接合は溶接で取るので、金属の熱伸びによる、逃げは不要となります。つまりシームレスに形態を形成できます。(コンクリートはシームレスに出来そうで、出来ないのが悔しいところ。∵誘発目地、収縮目地、打継目地)
この構造は普通の軸組などの構造方式よりは高価ではありますが、仕上げや、防水が不要と考えると、トータルでは安くなりえます。防水 下地 仕上げなどの材料と工程が減ることは人工を下げることと同じ。建築の総工費の大きな割合は人工であるので、人工を落とすことがとても大きいのです。
またコールテン鋼(キョロロで使われてたやつ)の自己錆再生の不思議にも語ってもらい、汚れや、耐候と言う面で、I邸のイメージがリンクしていきました。各種金属の物理的性質。おもに接合と面剛性、そして、リサイクル性能、面白い話がたくさん聞けました。
で、金属のモノコックとなると、断熱が、気になるところ。これはやはり、ウレタン等を吹きつける必要があります。妹島さんらは迷わず断熱塗料といきますが、あれ、相当効かないことが、うちの会社の技術で実証されました。それを知ってて、僕は使うわけには行かないので、残念ですが、断熱は従来的に行います。
実はモノコック構造は構造的にはもつのですが、面外の変形のために補剛材が必要となります。ないと、ベコベコになってしまう。ここがとても惜しいところ。と言うことで、モノコック構造を裏から補剛しそこに断熱を吹くことにはなります。これでも、トータルでみると非常に合理的で、部材の量は極めて少ないとても、魅力的で、面白い構造だと思います。I邸では、時間的な問題もあるので、上記構造はちょっと難しそうですが、コストが許せば、RCのモノコック的構造:つまりはスラブ、壁、屋根、梁がヒエラルキーなく等価に扱われることを実現したい。これはコストとの戦いかなあ。年内の目標としたいところ。木造の坪単価で達成できるかが勝負です。
外皮を独立して考えず、内部のプラン、構造、止水性能そういった技術的要素を統合しエンジニアリングする建築の形成が、ここ10年、いろんな建築家によって、模索されてます。うちの事務所でも僕の上司Y氏は真剣に向かっています。ただ、頭が良すぎるのか、止水、防水、遮音・・・全てを統合したがります。さくっと、構造のみに割切ったり、合理性を越えたデザインの価値を考えれば、もう少し柔軟にTOD‘Sなどが出来るんだろうにとも思ったりもします。